
マルチプレックスデジタルPCRとは何ですか?
        PCRにおけるマルチプレックス化では、1回の反応で複数のターゲット分子やシーケンスを検出できます。デジタルPCR(dPCR)を用いるマルチプレックス化は、使用する蛍光色素の種類を変えることで実現できます。従来のマルチカラーマルチプレックス化では、ターゲットごとに1つのプローブを使用し、発光スペクトルの異なる色素と結合したプローブを用いることでターゲットを区別します。ほとんどのdPCR装置では、少なくとも2つの専用検出チャンネルで異なる蛍光色素を検出します。一例としてQIAcuityデジタルPCRシステムでは、マルチプレックス化により同一反応で最大12のターゲットを明確に識別できます。
dPCRマルチプレックス化の利点
        dPCRシステムによるマルチプレックス化には多くの利点があるため、dPCRマルチプレックス化は関心が高まっているテーマです。この手法は、次のような目的に使用できます:
- 1回の反応で複数のターゲットを分析
 - ピペッティングの不正確さなどの技術的エラーを削減
 - ターゲット検出の可能性を高める
 - 分析に必要なサンプル量を削減
 - 個々の反応のダイレクト内部コントロールを提供
 - 時間と試薬を節約して、全体的なコストを削減
 
デジタルPCRによるマルチプレックス化により、シングルカラーアッセイでは実行できない、または容易に実行できないさまざまなアプリケーションが可能になります。このような分析には次のようなものがあります。
- コピー数変異:2プレックスのアプローチにより、ターゲット遺伝子とリファレンス遺伝子をペアリングし、その比率を決定
 - 一塩基変異や小さな挿入/欠失の二対立遺伝子変異:2つの加水分解プローブを用いる2プレックスのアプローチで、2つのプロットを用いて可視化(1)
 - 遺伝子型決定:シングルおよびダブルポジティブクラスターからパーティション数を計数(1)
 
高次マルチプレックス機能力を備えたデジタルPCR装置では、1つのサンプルの複数のターゲットを、高い感度と再現性で分析することができます。たとえば、QIAcuityデジタルPCRシステムには、サンプルやターゲット分析のニーズに合わせて、いくつかの構成が存在します。
マルチプレックス反応におけるナノプレートデジタルPCRの利点
マルチプレックスデジタルPCRは、マルチプレックスqPCRよりも柔軟性、感度、特異性が高いため、好ましいアプローチといえます。qPCRによるマルチプレックス化では、絶対値を計算するためにより複雑な方法が必要になる可能性もあり、この方法は1つの反応で複数のPCRが干渉される可能性が高くなります。カスタムクロストークマトリックスなどのソフトウェア機能があれば、実施するアッセイと実行パラメーターに基づいて、隣り合うチャンネルとのクロストークに対処できます。この機能により、dPCRマルチプレックス機能やデータの正確さが、qPCRと比較して向上します。
ナノプレートデジタルPCRは、短いラン時間、高い精度と感度、振幅マルチプレックス化をはじめとする高次マルチプレックスオプションを備えています。
QIAcuity装置は6色の色素に対応し、6つのチャンネルと2つのハイブリッドチャンネルでターゲットの検出に使用できる6つの色をご使用になれます。ハイブリッドチャンネルは、ロングストークスシフト(LSS)を持つ色素に使用します。LSS色素はどのような点で好都合なのでしょうか?LSS色素は、吸収光と放射光間のスペクトルシフトが標準の蛍光色素よりも長くなります。そのため、吸収と放射を別々のチャンネルで処理されます–たとえば、励起は、標準のグリーンのチャンネルの波長で起きますが、放射/画像取得はイエローのフィルターを通して検出されます。そのため、最大8プレックスの反応解析が容易になります。
さらに多くのターゲットの場合は、高次マルチプレックス化を試すことができます。QIAcuityは振幅マルチプレックス化が可能で、QIAcuity High Multiplex Probe PCR Kitを用いると最大12のターゲットを解析できます。振幅マルチプレックス化により、同じカラーチャンネルで2つのターゲットが同時に定量でき、反応あたりのデータ出力は実質的に2倍になります。QIAcuityソフトウェア(バージョン3.1以降)は、チャンネル内に3つの調整可能な閾値を導入し、ターゲット1、ターゲット2、ダブルポジティブを識別できます。このようにして振幅マルチプレックスがなされます。これらの閾値を設定することで、サンプル中の各ターゲットの増幅を解析することができます。
先進的な高次マルチプレックス機能は、ラボの資源を最適化し、遺伝的変異を高解像度で表示します。このような機能は、特にサンプルが限られている場合に、コピー数多型や微生物の検出などのアプリケーションに重要です。
QIAcuityファミリーの主要機能
QIAcuity*デジタルPCRシステム(非臨床研究用)、QIAcuityDx**デジタルPCRシステム(体外診断用)のハイスループットおよびマルチプレックス機能
| QIAcuity* One 2plex | QIAcuity* One 5plex | QIAcuity* Four | QIAcuity* Eight | QIAcuityDx** Four | |
|---|---|---|---|---|---|
|   検出チャンネル  |  2 | 8a (6+2ハイブリッドb)  |    8a  |    8a  |  5 | 
| マルチプレックス機能 | 4 | 12c,a | 12c,a | 12c,a | 5 | 
|   1就業日に  |    最大384  |  最大384 |   最大672  |    最大1248  |  最大672(96ウェル)d 最大168(24ウェル)  |  
| 用途 | 非臨床アプリケーション | IVDアプリケーション | |||
dPCRマルチプレックス化に関する初歩的な質問がまだありますか?弊社のQIAgeniusがお答えできるかもしれません。
マルチプレックスdPCRのアプリケーション
        マルチプレックスデジタルPCRで正確な定量を行うための留意点
        - 個々のアッセイを最適化:dPCRマルチプレックス化の前に個々の反応を検証します(たとえば、ダイマーの発生をチェック)
 - プライマーとプローブを評価:プライマーとプローブの相互作用の可能性をチェック
 - 色素を慎重に選択:各アッセイの色素を慎重に選択。低コピーターゲットには明るい蛍光色素を持つ色素を選択
 - リンクしたターゲットをチェック:リンクしたターゲットまたは高次ターゲット相関の可能性を調査します。たとえば、リンケージベースのアッセイを使用して、ターゲットのシス対トランスの構成と潜在的な構造再配置を測定
 - クロスハイブリダイゼーションを回避:可能であれば、プローブのミスマッチを避けるために、2つ以上のヌクレオチドの欠失または挿入を含むプローブとターゲットのバリエーションを設計
 - 光学的な漏れ込みを最小限に抑制:色素の蛍光が複数のチャンネルで拾われる場合に発生します。可能であれば、共役色素が光学検出システムに一致していることを確認するか、解析ソフトウェアのシグナル処理パラメーターを調整
 - クロストークの問題を解決:システムにカスタムのクロストークマトリックスなどの特別なソフトウェア機能があるかを確認してください。この機能があれば、すべてのマルチプレックスアッセイでも、隣り合うチャンネルとのクロストークを解析し、データの信頼性が向上
 - レインの存在を低減:レインとは、陰性パーティションよりも高いが、陽性パーティションより低いパーティションのサブセットを表します。テンプレートの種類、確認、整合性、アッセイ特異性、反応中の阻害物質の存在を再評価することで、レインを減らすことができます。レインが定量に与える影響を避けるため、閾値の位置を変えて設定することを検討してください。
 
マルチプレックスdPCRを開始する
        マルチプレックスデジタルPCRの実施にご関心がある場合は、高度なマルチプレックス機能を備えたdPCR装置への投資をぜひご検討ください。マルチプレックスデジタルPCRアッセイ用に開発されたdPCRキットやdPCRアッセイも多数あり、マルチプレックスの初心者と専門家の両方にさまざまなメリットをもたらします。
- デジタルPCR装置 – デジタルPCRシステムにはさまざまな種類がありますが、中には他のシステムよりも多くのマルチプレックスオプションを提供するシステムもあります。QIAcuity dPCRシステムでは、最大6つの標準チャンネルとLSS色素用の2つのハイブリッドチャンネルでマルチプレックス化することにより、8プレックスのアッセイを設定できます。さらに振幅マルチプレックス化に標準チャンネルを使用すると、QIAcuityのマルチプレックス機能を12プレックスに増やすことができます。
 
| チャンネル | 励起(nm) | 発光(nm) | 蛍光色素の例 | 
|---|---|---|---|
|   グリーン  |    463 – 503  |    519 – 549  |    FAM™、EvaGreen®  |  
|   イエロー  |    513–534  |    551–565  |    HEX™、VIC®  |  
|   オレンジ  |    541–563  |    582–608  |    TAMRA™、Atto 550  |  
|   レッド  |    568–594  |    613–655  |    ROX™、Texas Red®  |  
|   クリムゾン  |    588–638  |    656–694  |    Cy5®、Quasar 680  |  
|   遠赤  |    651-690  |    709-759  |    Cy5.5、Atto 680、Atto 700  |  
|   グリーン/イエロー  |    463–503  |    551–565  |    DY-482XL (LSS G/Y)*  |  
|   オレンジ/レッド  |    541–563  |    613–655  |    DY-540XL (LSS O/R)*  |  
- 多目的dPCRキット – マルチプレックス反応用に開発されたdPCRキットの使用をご検討ください。QIAcuity High Multiplex Probe PCR Kitは、難しいサンプルやターゲットを5つ以上のターゲットのマルチプレックス化に最適です。QIAcuityプローブPCRキットには、QIAcuityナノプレート上で存在量が大きく異なる最大5つのターゲットを定量することができる特別なマスターミックスが含まれています。dPCRマルチプレックス化により、データの品質や有効性に影響を与えることなく、時間、コスト、サンプル材料を節約できます。
 - コンタミネーションのない分析用のdPCRキット – バックグラウンドDNAのコンタミネーションを最小限に抑えるウルトラクリーンなマスターミックスを必要とするアプリケーションには、専用のキットがあります。QIAcuity UCPプローブPCRキットは、微生物分析や残存DNA検査などの品質管理アプリケーションに最適です。このキットは、シングルプレックスまたは5プレックスdPCRアッセイで、gDNAやcDNAの定量において高い特異性と精度を提供します。
 - アプリケーション特異的dPCRマルチプレックスアッセイ – 特定のアプリケーションに応じてスループットを向上させ、コストを削減するのため、さまざまな色素(FAM、HEX、ROX、Atto 500、Cy5)を使用したdPCRアッセイを開発しました。このマルチプレックスdPCRアッセイにより、柔軟な実験設計が可能になり、1回の反応で最大5つのターゲットのマルチプレックス解析が可能です。特定のdPCRアッセイは、CNV解析、微生物検出、細胞および遺伝子治療、がん関連変異のLNA変異アッセイに使用できます。
 
マルチプレックスデジタルPCRの注目製品
        dPCRマルチプレックス化に関する出版物
        マルチプレックスdPCRに関するその他の情報
        その他の参考文献
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